牛肉や魚は生でも食べるのに、豚肉や鶏肉は必ず加熱するのは何故ですか?
実は、鶏肉については生でも食べられる方法があるのですよ。
その秘密は解体方法にあり、「外はぎ」という技法で処理された鶏肉ならば生でも食べられます。
食鳥の処理方式には「中抜き」と「外はぎ」の 2 種類があり、食鳥処理場によっては 1 時間に 2,000 羽以上を処理するため、ライン方式による流れ作業で機械化しやすい「中抜き」を採用するのが通常です。
- 中抜き:脱羽された屠体からまず内臓を専用の機械で取り出し、その後で手羽先やもも肉といった部分肉をはぎ取っていく方式
- 外はぎ:中抜き方式とは逆に手羽先、もも肉といった部分肉をはぎ取っていき(つまり外側から必要な肉をはぎ取っていく)、最後に内臓を取り出す方式
つまり、腸管などの内蔵に付着しているカンピロバクターやサルモネラなどの細菌を撒き散らすことなく、それよりも前に肉をはぎ取ってしまうので、生食ができるんですね。
ただし、手間がかかりますし、技能が必要なので、鶏肉の生食は「鶏刺し」の文化をもつ鹿児島と宮崎のみで独自に許される食べ方となっています。
両県のこだわり、意気込みが感じられます。処理業者ごとに歴史とノウハウがあるので、ある程度の裁量を認めながら責任持って安全を確保するということでしょう。
実際に宮崎では「生食用の鶏肉」がスーパーでも普通に売られていますね。
念には念を入れて、表面を軽く炙る「焼烙」というプロセスを入れることもあり、ここまでしていればまず大丈夫です。
牛の生食
ではなぜ鶏は解体手順によるのに、牛は生食できるのか?というと、これは「牛はデカイから」というのが単純な原理となります。
体躯が大きく、2 乗 3 乗の法則により、体表面積に対して体積が大きい。
したがって「牛肉表面から 1cm の内部を 60 度で 2 分間加熱し、表面に汚染している病原菌を完全に死滅させ、その内部の肉を細菌検査により腸内細菌科菌群の汚染がないことを確認したものを生食用として提供」という厳しい新ルールに従って、生食用に表面をトリミングして(削って)捨てても可食部が大きく残るのです。
そして、鶏肉とくらべて重量あたりの単価でも高価なので、その歩留まりの低下を許容できる経済性のバッファがあるのですね。
ただし、牛でもレバーだけはその細胞構造上、O157 の 汚染が表面にとどまらず内部にまで達することがあるため、生食のリスクは(低いとはいえ)どうしても避けられない状況です。
豚の生食
豚は、鶏や牛とは違って、細菌よりも寄生虫が問題です。
寄生虫が問題になるのは、豚のほかにも肉食性をもつ雑食の動物、たとえばイノシシ、タヌキ、キツネ、クマなどのジビエでも同様です。
文明・農業の発展とともに、貯蔵された食料をめぐり、ネズミもひそかに人類と共存繁栄するようになりました。家畜化されたブタは、そのネズミを食べることで寄生虫に感染し、循環させるサイクルを作り上げました。
(注:日本では上記のトリヒナよりも汚染された餌や水による有鉤条虫のサイクルが問題です)
寄生虫の硬いシスト(嚢胞)は、胃液によって分解され、幼虫が放出されます。そこで寄生虫は腸の粘膜へと侵入し、成虫になれば筋肉に移動してシストを作り、被食されるのを待ちます。つまり、このサイクルは、肉食の連鎖によってのみ継続するのです。
寄生虫のシストが筋肉に住み着いている以上、肉はしっかり焼くほかありません。
また、レバーに関しても、E 型肝炎ウイルスは組織の奥深くまで入りこんでしまうので、これまた加熱するほかありません。
逆に言えば、草食オンリーの牛、馬、鹿などは比較的、生食にしやすいのですね。寄生虫がいないので、基本的には表面を炙れば安全に食べられます。
特に馬は、消化管の中に O157 を保菌している牛や鹿などの反芻動物と異なり O157 のリスクがなく、また体温が高く 40 度ほどあり、雑菌が増殖しにくい環境のため、生食にはもってこいで、レバーも生食できる貴重な食材となっています。馬肉の唯一のリスクであるサルコシスティス・フェアリーも 48 時間冷凍すれば死滅させられます。
魚の生食
我々にとって生食が当たり前だと思っている魚だって、長年の試行錯誤と犠牲の上に知識と技術が磨かれてきたから今があるのです。昭和の時代には、魚の生食であたって後遺症の残る病気になったり死んだりすることは珍しいことではありませんでしたから。
とくに川魚は恐ろしい寄生虫が多いのでとても危険です。これも先ほどの話と同じく、昆虫や動物のフンなど陸上の動物と接する機会が多く、寄生虫の循環するサイクルを作り上げているからです。
海の魚、とくにプランクトンからの食物連鎖につらなる魚類は比較的安全です。海魚のなかではアニサキスは胃壁に食らいつい て大暴れして激痛をもたらす寄生虫ですが、他の寄生虫ほど人体内での生存に向いてないので最終的には死滅し、命にかかわることはまずないです。
長い間航海を続ける遠洋漁業においては、長期保存が不可欠。超低温冷凍で保存すると、2 年以上にわたって変色を防ぎ、刺身として食べられる鮮度を保つことができます。そしてアニサキスは冷凍で死滅します。そのため、安全だと言えるわけですね。
では、鮭(サケ)はどうなのか?海に行ったり、川を上ったりしますが、今やお寿司の定番ネタです。これは実は、「サーモン」といえば安全な環境で養殖されていたものを指し、「鮭」といえば野生のものを指すのですね。「鮭」は川魚の一種なので、そのままでは生食できないのです。