コアラの名回答集 ʕ•ᴥ•ʔ
2021年07月29日

今から起業するとしたらどの様な分野で起業をしますか?

経営に詳しい方たちがいい回答を書いておられますので、私は少し違った観点から回答してみようと思います。

ご質問者の方は稼げる方がいいはずであると考えます。会社も潰したくはないはずです。その点を重視し、私は自分の専門分野や関連分野の知識から、どの業種が稼げるのかという点を、客観的指標を使ってアドバイスさせていただきたいと考えます。

なお、ここで展開する議論は、起業を考えておられる方、あるいは別の業種への転職を考えておられる方全般に適用できるアドバイスなので、ご参考になれば幸甚です。


さて、ご質問者が始めようとしておられるのはまずはスモールビジネスですから、私がアドバイスとして使う指標は、TKC グループが提供している BAST 速報版です(最新の速報値がつねに無料で公開されています)。

業種は 206 業種ありますので、どの業界がいいのかというアタリを付けるのには十分だと思います。起業コンサルタントや経営コンサルタントの方でも、この数値を上手に使っておられる方がいらっしゃいますから、プロの目から見ても十分に使えるデータであるのだと思います。

また、採録されている数値は黒字企業だけから算出したのデータですので、利益が出ている企業の実態を反映しています。

それぞれのデータを吟味すれば、その分野で黒字企業が多いのかなどは直ぐに分かりますし、儲けている会社はどの分野に多く、どれくらい会社全体で稼げばいいのかとか、一人あたりの給料はどれくらいになるのか、などなどがこの BAST からはわかるので、重宝します(なお、以下の図表は 2019 年のものです)。


以下で展開する手法は指南としての一例です。ほかにもいくつも妙手が考えられますので、いろいろお試し下さい。

(1)儲かる業種を探す

では実践的には、BAST のどこを見るといいのかというと、まずは緑で囲った「限界利益率」です。限界利益は TKC の定義では「粗利」のことです。したがって、「限界利益率」とは「粗利率」のことです。

まず、この「限界利益率」があまり低い業種はお薦めしません。少なくとも、50 ~ 60%以上あることが望ましいでしょう。70%以上であれば、その産業分野はたいへん優秀であることが多いといえます(むろん例外はあるのですが)。逆にこれが低いと、いくら売り上げても利益は大きくないということなので、ご注意を。

最初はこの限界利益率で業種を絞っていくことを行うといいでしょう。

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(2)従業員 1 人あたり年間 1000 万円以上売上がある業種を選ぶ

この条件を満たせる会社は、長期にわたって好経営を維持できることが経験的に知られています。

具体的には、青で囲んだ部分の数値が 1000 万円(一月間で 85 万円/従業員 1 人)の売上が可能な業種を選びます。各種の年金や保険料とかを考えると、経営が軌道に乗るまでは、最初はあまり正社員を雇わないようしましょう。経営側の判断に立てば、現行法では正社員は贅沢品です

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(3)給料のいい業種をさらに絞り込む

つぎに「給料はいい方がいい」という原則にのっとってさらに絞り込みます。この BAST の数値を用いれば、従業員一人あたりの給料はどれくらいになるのかも、ここから計算できるので、バイトさんに十分な給料を払える業種がいいのはいうまでもありません。従業員に高給を払う企業で、倒産した企業はありません(それ以上に利益が出ているからです)

では、実際の計算方法です。赤枠で囲んだ二つの数値を使用します。1 人当り限界利益は要するに会社の一員たる従業員が 1 人あたりでどれくらい粗利益を稼いだかを示しています。

さらに、労働分配率に注目します。これは上記の粗利益の何%が従業員に給料として支払われているかを示した数値です。

そして、この二つの数値を掛け合わせると、従業員がどれくらいの粗利益を給料として受け取っているのかが計算できます

図内にある「ごみ収集運搬業」を例にとると、

1 人当り限界利益(821 万 8000 円)× 労働分配率(59.1%)= 485 万 6838 円

となるので、従業員の給料は、ごみ収集運搬業界平均で 486 万円(年収ベース)ほどを受け取れることになります。

ちなみに、サラリーマンの転職先として人気の蕎麦うどん屋は、給料が頑張っても月に 15 万円程度にしかなりません。よほど蕎麦・うどんが好きでなくては続きません。

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以上の(1)(2)(3)でスクリーニングし、絞っていくと、やがていくつかの選択肢が残り、その選択肢の中で真剣に実行可能な業種で起業を行えばいいのです。

選択肢の中に自分の好きなことがあって、そこで起業することができればいいですが、そうでないなら、仕事は仕事と割り切って、この結果に従うのも一案です


以上、私のできるアドバイスを述べました。ご参考まで。むろん、決定は自己責任でお願いしますね。

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大学教授(おもに経済学者、ときに黒い経済学者、まれに童話作家)
松本 貴典