コアラの名回答集 ʕ•ᴥ•ʔ
2022年08月09日

価値観の違いについて語ってくれる漫画はありますか?

ドラえもんで有名な藤子・F・不二雄先生が執筆した「ミノタウロスの皿

本作は価値観の相違をシンプルかつ時に怜悧なまでの恐ろしさで表現した傑作です。

本作の読みきり原稿が初めて掲載されたのが 1969 年と今や半世紀前にも遡りますが、50 年経過しても尚色褪せない名作となっております。

地球から出立した搭乗する宇宙船の事故によって未開の星に不時着した主人公。

不時着した星の生態環境はなんと・・・

人間と牛の食物連鎖による主従関係が逆転した星だったのです。

この星で牛は「ズン類」、人は「ウス」という名前で牛が人肉を食す生態環境が構築されていました。

そんな中で自らが不時着した際の救助に尽力してくれたウスの少女・ミノアに主人公は恋心を抱いてしまいます。しかもミノアは数日後にミノタウロスの皿という祭壇の生贄に捧げられる事が決まっていました。

主人公はミノアがズン類に殺される事を回避すべく彼女を説得しますが梨の礫。

どうせ死ぬのであれば、それによって得られる名誉を歴史に刻んで死ねる方が本望だと彼女は主人公へ滔々と語るのでした。

しかしこれを承服出来ない主人公はなんとかミノアが祭壇で殺されるのを回避すべくズン類の星を東奔西走するのでしたがこれまた梨の礫。

一人で生態環境の異なった地球で生まれ育った人類としてズン類たちに不信感を募らせていった彼は大祭の当日に武力行使で彼女を救出することを決意します。

そんな必死の甲斐も虚しく主人公はミノアの救出に失敗して彼女はウスの活造りとして生きたまま解体されてしまいました。

全裸の美女が牛の顔をした人間に生け殺しされるなんてホラーですね・・・これぞ児童向けというベールに隠された藤子ワールドのブラックな本質を全開にした展開にほか有りません。

最後までいいとこ無しの主人公は救助に来た迎えのロケットの中で涙ながらにビーフステーキを食べて物語は幕を閉じます。

大事な所なのでもう一度言います。

  • ビーフステーキを食べて物語は幕を閉じます。

これは相手に対して「残虐だ!」と批判していた行為と全く同じ過ちを主人公も犯している訳です。まるでステーキ肉に振りかけるスパイスの如く辛味のある皮肉で藤子先生は読者に問いかけてくるのです。

また、もう一つのポイントとしてはズン類達は主人公の価値観そのものを誰も批判していないどころか彼に国賓級の待遇を与えている所です。

これは地球人の価値観で彼らを批判する主人公の行動と対比する形となっています。

このように価値観の違いを受け入れると言う事は自分の価値観と異なる物を受容せねばならないという事。

故に本能的にはこの主人公のように苦痛を感じてしまう物です。

しかしそれが苦痛だからと理由で決してその社会から排除してはならないという点も肝要です。

仮にズン類達がこれを理由に主人公の排除を試みていたら、彼はまともに生還出来なかったどころか地球とズン類の星の間で新たなる戦火の火種になっていたかも知れ無いのです。

そんな今日においても多様性の問題という形で論じられる価値観の相違にまつわる一端を興味深く示唆してくれるのがこの「ミノタウロスの皿」という作品です。

コマ引用:「ミノタウロスの皿」|藤子・F・不二雄作(小学館『ビッグコミック』(1969)掲載)

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フリーランス
Kouichi Mikami